CLの小説

ふと思い浮かんだお話を書いています。

春の天使

新しいイヤリングをつけた。緑色で花の形を模した小さなイヤリング。

特に何か特別なことがあったわけでもない。新学期が始まるでもないし、新しい恋人ができたわけでもない。

ただ春がきたから。

 

冬が終わるとあたたかな日差しが世界を照らす。全ての生き物が喜んでいるかのような錯覚に陥る。 なぜか胸が踊る。何か良いことが起きる予感がする。

心も体も軽くなってそのままどこまでも飛んでいけそうな気分になる。

私は毎年春の魔法にかかる。

 

デパートを出た先の道でふと見上げると桜が咲きかけていた。まだちらほらとしか咲いていないけどなんて愛くるしいんだろう。人通りの多い道だけど、桜のつぼみに気づいている人は少ない。人の気を引こうと一生懸命に花を咲かせようとする様子は、入学してそわそわしている小学生の子供のようで微笑ましい。

 

私は桜を見ながら大きく息を吸った。なんだか甘い匂いが鼻をくすぐる。周りにカフェやレストランはない。きっと春の匂いだろう。

 

私はふと隣を歩いていた人に囁いた。

「あなたに良いことが起こりますように。」

驚いて顔をあげたその人は桜のつぼみに気づいたようだ。

私は満足して軽くつま先でジャンプした。その瞬間風が巻き起こり桜の枝が揺れた。

 

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